大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(ツ)40号 判決 1975年12月08日

上告人

河田照夫

右訴訟代理人

太田実

被上告人

倉石佐兵衛

長野相互株式会社

右代表者

倉石佐兵衛

右両名訴訟代理人

川上真足

主文

原判決を破棄する。

本件を長野地方裁判所に差し戻す。

理由

別紙上告理由二について。

上告人の被上告人らに対する本訴請求は、上告人が訴外桑嶋正義から譲り受けた本件土地の所有権に基づくものであるところ、原審は、右桑嶋がその前主である訴外小出智雄から買い受けた土地の中には本件土地が含まれていないと認定し、したがつて、右桑嶋から本件土地を譲り受けてその所有権を取得したとする上告人の主張は採用するに由ないものと判断したのである。

しかし、原判決の確定判示するところによれば、訴外小出と訴外桑嶋との間の土地売買に関して作成された土地売買予約証書と題する書面(成立に争いのない甲第三号証)には、その目的たる土地の表示として「長野市大字中越二〇六番宅地農地約四二五坪道路部分を含む」旨の記載があるところ、同二〇六番の土地の地目は宅地であり、その面積は三一七坪であるというのである。そして、上告人は右二〇六番の宅地に隣接する本件土地(同二〇五番二)の一部が右目的物たる農地にあたるものであると主張していて、本件土地が当時農地であつたことは当事者間に争いのないものとして原判決上窺えるところであるから、右表示の目的たる農地に本件土地の一部が含まれるかどうかは、上告人の本件請求を理由あらしめるか否かの事実として重要な事項であるといわなければならない。

しかして、原判決が判示するところによれば、右買受人たる桑嶋正義の原審における証言と第一番および原審における証人桑嶋数市の証言中には、右目的物中に本件土地の一部が含まれる趣旨の供述があるというのであつて、これらの証拠は右の事項を認定する証拠として重視されなければならないものであるから、これを排斥する理由の説示は十分納得のいくものでなければならないところ、原判決が右各証人の証言と甲第三号証とをもつてしては上告人の右主張事実の有無を明確にすることはできないとした理由をその判文から窺えば、第一に、右証人らの証言中には他方で、「二〇五番二の土地を含めた契約であることを知らなかつた」とか、「二〇五番二が含まれていたかどうか知らなかつた」旨の供述もあるということであり、第二に、原審における証人小出智雄(第一回)、宮下英一の各証言によれば二〇六番の土地の北側に所在する訴外宮下の土地について訴外小出と右宮下との間において確たる契約ではないにしても宮下が北側の土地を小出に売つてもよいとの意向を示した話も決着がついていない状態であつたから、甲第三号証の契約における目的物にこの宮下の土地を含めたものとみることができる余地なしとしないということであるが、右第一の理由として掲げる各供述を記録にあたつて検討すると、これらの供述は、桑嶋が小出から買い受けてアパートを建てる土地の範囲に、現実に二〇五番二に該当する土地の一部が含まれることを知らなかつた趣旨をいうものではなく、ただ、当時それが二〇五番二の地番であることは知らなかつた趣旨ととれるから、いずれも、前示契約の目的物に本件土地の一部が含まれる趣旨の前記各証言の証拠価値を滅殺するに足りるものと解されず、また、右第二の理由として原判決が説示するところ自体を検討しても、二〇六番の土地の北側に所在する訴外宮下の土地を同訴外人が小出に売つてもよいとの意向を示した話が確たる契約ではないにしても決着がついていない状態にあつたという事実が認定できたからといつて、この事実から直ちに、甲第三号証の契約における目的物にこの宮下の土地を含めたものとみることができる余地があると判断することは、合理性のある十分な説示ということはできない。ことに、原判決は、小出としては当時既に二〇六番の土地に隣接する本件土地を訴外神田から譲り受けていて、これを建設業のための材料置場として使用していた事実を当事者間に争いのないこととして摘示しているのであるから、小出が桑嶋に対し二〇六番の土地とともに売り渡すべき土地として、何故、本件土地を選ばずに、あえて買受け契約の成立していない宮下の所有土地を選ぶのかの点について、理由説示として不備のそしりを免れないものといわなければならない。

また、本件のような事案にあつては、小出が桑嶋に土地を譲渡することになつた経緯および譲渡後の使用関係なども、目的物件に本件土地が含まれたかどうかを推認するにつき重要な間接事実として認定判断すべきであるといわなければならないところ、原審がこの点について何ら審理判断するところなく、上告人の右主張を認めるに足りる証拠はないとしている点にも、審理不尽、理由不備をいう余地がある。

論旨は、右の点につき原判決の違法をいうものと解せられ、上告の理由あるものといわなければならないから、その余の論点について判断するまでもなく、民事訴訟法第三九五条第一項第六号、第四〇七条第一項により、原判決を破棄し、本件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(畔上英治 安倍正三 岡垣学)

上告理由《略》

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